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水素サプライチェーンの構築

日本では、2050年の脱炭素社会実現を見据え、水素のサプライチェーン構築が不可欠とされています。環境省をはじめ、産官学で将来像や地域モデルの整理、実証事業に取り組んでおり、本ページではその全体像と実証作業、水素モデルを紹介します。

水素サプライチェーンの将来像

水素サプライチェーンは、製造・貯蔵・輸送・利用を一貫した仕組みの流れを指します。再生可能エネルギーから生成した水素を効率的に供給することで、化石燃料依存からの脱却を促し、低炭素社会の実現に貢献すると期待されています。

将来的には、地域ごとの資源や需要に合わせた地産地消モデルと、国際的な液化水素輸送を組み合わせ、安定かつ持続可能な供給体制を確立することが重要とされているのです。

経済産業省では、2030年までに発電用途中心に30万トンの水素調達、将来的には500万〜1,000万トン規模を達成し、コストも30円/Nm³(将来的には20円/Nm³)まで引き下げることを想定。発電電力量としては、数十億~数千億kWh規模を目指すという試算もあります。

こうした設計思想は、地域モデルの多様性とコスト・利用効率を両立し、参加する企業や自治体に明確な方向性を提供する点で、非常にビジネス志向な構成といえます。

環境省の実証作業

環境省は、水素社会の早期実現を目指し、各地で具体的な実証事業を推進しています。コスト低減、地域特性の活用、国際競争力の強化といった視点で設計されており、企業や自治体との連携が特徴です。ここでは、代表的な3つの取り組みを紹介します。

トヨタ自動車:クリーン水素活用フォークリフト導入

神奈川県横浜市および川崎市において、クリーン水素を活用した燃料電池フォークリフトの導入実証を実施しました。

風力発電によって得られた電力を用い、水を電気分解して水素を製造。製造した水素は貯蔵タンクに保管され、圧縮機を経由して簡易型水素充填車で輸送されます。その後、青果市場や冷蔵倉庫、物流倉庫などに配備された燃料電池フォークリフトに供給され、実際の業務に利用されました。

エア・ウォーター社:家畜ふん尿由来水素の実証

北海道河東郡鹿追町において、地域で発生する家畜ふん尿を活用した水素サプライチェーンの実証事業を展開しました。

家畜ふん尿をメタン発酵し、得られたバイオガスを精製して水素を製造。その後、貯蔵・輸送を経て、地域内の燃料電池や車両に供給するサプライチェーンを構築しています。

トクヤマ:副生水素の活用実証

山口県周南市の苛性ソーダ工場で発生する高純度の副生水素を活用し、地産地消と広域供給を両立するモデルを実証しました。

本事業は2015年度から2021年度にかけて実施され、圧縮・貯蔵した水素を燃料電池自動車やフォークリフト、定置型燃料電池、ボイラーなどに供給しました。

2020年度からは太陽光発電を活用した再生可能エネルギー由来の水素製造も導入し、副生水素とグリーン水素を組み合わせた仕組みを構築しています。

脱炭素社会における水素モデル

水素の利用モデルは、地域特性や用途に応じて複数に分類され、それぞれに適した供給方式と利用形態が検討されています。以下では、7つの代表的モデルを紹介します。

市街地・街区モデル

都市や街区において、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーション整備や、家庭・商業施設向け燃料電池(エネファームなど)で利用される水素の活用が中心。都市的なポテンシャルを生かして、ガス供給へのブレンドや分散型電力供給に対応可能です。

物流地域モデル

燃料電池トラックやフォークリフトが導入されるほか、災害時の事業継続性を確保するために、定置型燃料電池が非常用電源として用いられます。供給は水素ステーションを拠点とし、トレーラーやローリーによる輸送に依存。

製造原料には大規模再エネや地域再エネが想定され、輸入水素が港湾から供給される場合もあります。

農村・漁村モデル

農業では燃料電池式の農機やフォークリフト、漁村では漁船や港湾設備に水素が活用され、定置型燃料電池が非常用電源として設置されます。小規模利用が中心となるため、供給は水素ステーションと併せて、カードルや水素吸蔵合金による配送が選択されます。

製造原料としては地域再エネやバイオマスが重視され、地域資源を循環的に活用できる点が強みです。

離島モデル

地理的条件に応じて「系統連系型」と「マイクログリッド型」に分かれます。系統連系型では本土と送電網で接続し需給調整を行い、マイクログリッド型では地域内で電力と水素を循環させる独立システムを構築します。

モビリティ用途では燃料電池バス、FCV、船舶が利用され、災害時には定置型燃料電池が非常用電源として稼働。水素供給はトレーラーやローリー輸送が主体で、製造原料として地域再エネやバイオマス、本土から移入した電力も活用されます。

工業団地モデル

既存の都市ガスやLPガスインフラを活用しつつ、水素を産業分野に供給する仕組みです。産業熱(ボイラーやバーナー)、自家発電、還元剤を用いる工業プロセスなどで水素が利用され、フォークリフトなどのモビリティ用途にも展開されます。

水素は配管による大規模供給が中心で、利用先によってはカードルや専用充填設備が必要となります。製造原料には大規模再生可能エネルギーが見込まれており、環境負荷を抑えつつ産業活動を持続させるモデルとして重要です。

コンビナートモデル

水素は直接配管で供給され、石油精製プロセスやP2C(Power to Chemicals)、P2F(Power to Fuels)といった合成燃料製造、自家発電などに利用されます。鉄鋼分野では水素還元製鉄が代表的な用途であり、脱炭素化の本丸とされる領域です。

製造原料は大規模再エネが前提であり、輸入水素の活用も視野に入ります。化学産業型と鉄鋼産業型というサブモデルがあり、産業構造に応じて最適化された供給方式が特徴です。

港湾・空港モデル

交通ハブにおける水素利活用を目的としています。港湾では船舶や荷役車両、事業用発電に水素を活用し、空港では燃料電池バス、航空機地上支援車両、非常用電源などに利用されます。

供給拠点は水素ステーションで、規模に応じて配管による供給も組み合わせられます。港湾では火力発電所の代替として水素発電が導入されるケースも想定されています。